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カベルネ・フランの静かなる存在感と魅力

執筆者プロフィール

シニアソムリエ 矢渡 美幸

オーキッドバー 等を経て、 山里 ソムリエ。
J.S.A.シニアソムリエ、J.S.A. SAKE DIPLOMA、調理師免許、NBAバーテンダー技能検定等、
多彩な資格を持ち、日本酒やウィスキーまで含めた、お酒に関する広範な知識を持つ。

カベルネ・フランは、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローについで世界中で広く栽培される国際的な黒ブドウ品種です。フランス、ボルドーではブレンドの補助品種として使われる事が多く、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローの引き立て役のイメージが強いかもしれません。しかし栽培地が変わればフランスのロワール地方のように単一または主要品種として使用されます。主役も脇役もこなし様々な顔を持つブドウ品種、カベルネ・フランの魅力とは、どういったブドウなのでしょうか。

カベルネ・フランの基礎知識

カベルネ・フラン イメージ画像

カベルネ・フランはカベルネ・ソーヴィニヨンの原種で、中近東が原産のヴィティス・ヴィニフェラ種に属します。小粒で厚い果皮を持つ見た目はカベルネ・ソーヴィニヨンに良く似ており、特徴的な植物系の青い香りも共通するニュアンスがありますが、カベルネ・ソーヴィニヨンほどのボリューム感や強靭なタンニンはありません。水はけの良い小石や砂利質にほどよく粘土の混ざった土壌が適しており、比較的温暖な気候で育ちます。しかし、メルローよりも耐寒性があり、やや冷涼な気候でも栽培が可能で、フランスのボルドー地方を中心に今では世界中で広く栽培されるようになりました。栽培地ごとに異なるワインに仕上がるので、おもな産地ごとにワインの特徴を見ていきましょう。

フランス、ボルドー地方 BORDEAUX

ボルドー地方はカベルネ・フランの主要産地です。この地方では他の品種とブレンドされることが多いのですが、その理由はこの地の気候条件が大きく関与しています。
メドックで生まれ、今や世界で最も広く栽培されているブドウ品種、カベルネ・ソーヴィニヨン。このブドウから造られるワインは、完熟すると豊富なタンニンとボリューム感があり、長期の熟成に耐える素晴らしいものです。しかしやや晩熟で湿気に弱く、収穫時期の天気が不安定なボルドーでは、毎年同じ味わい、同じ品質のブドウを得ることは容易なことではありません。そのため冷害や湿気に強く早熟なブドウを同時に栽培し、異なる品種をブレンドすることで不作のリスクを軽減し、ブレンド比率を変えることで毎年一定の水準の味わいになるよう調整をしてきました。それに適したブドウがカベルネ・フランやメルローだったのです。
ボルドー地方の大半がカベルネ・フランを補助的にブレンドしているのに対して、左岸のサンテミリオン地区はボルドーの中でもカベルネ・フランとメルローの割合が高く、主要なブドウ品種になっています。メドック地区と比べてやや冷涼で湿ったこの土地は、カベルネ・ソーヴィニヨンが完熟するにはやや難しい場所です。しかし、そのおかげでシュヴァル・ブラン、オーゾンヌ、アンジェリュスのようにカベルネ・フランの比率が高く、しなやかで強く美しい高貴な赤ワインが生み出されてきました。カベルネ・フランはワインに骨格を与え、清涼感や上品なタンニン、スパイシーさをもたらします。

フランス、南西地方 SUD-OUEST

ボルドー地方の東に位置し、栽培地が広範囲に点在しているためそれぞれで異なる個性のワインが生まれますが、ドルドーニュ川上流にあるベルジュラック地区はサンテミリオンに近く粘土質と砂利質の土壌です。カベルネ・フランの栽培に適しており、ボルドーと同じくカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローとブレンドして使用されます。ベルジュラック地区はボルドーよりも寒い冬を迎えますが、夏の日照に恵まれているため力強く果実味に溢れたワインとなり、手ごろな価格で手に入れることが出来ます。

フランス、ロワール地方 LOIRE

ロワール地方は、フランス中央部から大西洋に注ぎ込むロワール川流域に沿って長くのびるワイン産地です。ボルドーより北に位置し冷涼な気候のため、黒ブドウ品種ではカベルネ・フランが最も多く栽培されています。
アンジュ&ソミュール地区で産出されるワインは、半甘口の飲みやすいロゼ、高品質なソミュール・シャンピニィという赤、シャンパーニュ方式で造られるスパークリングワインのソミュール・ムスー・ロゼが有名です。
トゥーレーヌ地区では「ブルトン」という名で呼ばれ、ロワール川の右岸からブルグイユ、サンニコラ・ド・ブルグイユ、左岸からはシノンというロワール最高クラスの赤ワインが生まれます。これらのワインに共通するところは、カベルネ・フランの使用比率がとても高く90~100%。ブレンドする場合はカベルネ・ソーヴィニヨンに限られ、使用の上限は10%までと厳しく定められています。カベルネ・フランが主役で生み出されるワインは、爽やかでラズベリーのように瑞々しくフルーティーでありながら、良作の年は10年以上熟成する優れたワインとなります。絹のようだと例えられるその柔らかな味わいは、他の産地では味わえない非常に魅力的なものです。

フランス以外の産地

フランス以外でもカベルネ・フランの人気は年々上がり続けており、徐々に栽培地を広げています。栽培量を増やしている国は、南アフリカ、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、アメリカ、ハンガリー、イタリア、ニュージーランドなどです。ボルドーのようにブレンドの補助品種として使用されることが多いのですが、近年注目されているのはカベルネ・フランが主役のワイン。イタリアのトスカーナや、アメリカのカリフォルニアなどではカベルネ・フラン主体に素晴らしいワインが生まれています。

カベルネ・フランのおすすめワイン

Château Angélus
シャトー アンジェリュス
  • 産地 : フランス ボルドー地方 サンテミリオン地区
  • 特徴 : ボルドー最新の格付けによってプルミエ グランクリュ クラッセA(第一特別級A)に昇格したシャトーです。サンテミリオンの南側に広がる水はけの良い丘陵の斜面に位置し、上部は粘土質・石灰質、下部は砂質・砂利混じりの粘土石灰質の土壌です。上部の丘陵地はメルロー、下部にはカベルネ・フランが適しており、およそ半々の割合で栽培しています。ブレンド比率はその年によって大きく異なりますが、カベルネ・フランの比率が高めで半数近くを占めます。カベルネ・フランをブレンドすることでワインに骨格を与え、ほどよいタンニンや清涼感、スパイシーさなどが加わります。偉大なテロワールから生まれるアンジェリュスは、清涼感のある果実のアロマ、滑らかなタンニン、シルキーで爽やかなテクスチャー、長く心地よい余韻が続きます。
Chinon Clos du Chene Vert
シノン クロ・デュ・シェーヌ・ヴェール
  • 生産者名 : Charles Joguet シャルル・ジョゲ
  • 産地 : フランス ロワール地方 トゥーレーヌ地区
  • 特徴 : トゥーレーヌ地区の西に位置するシノンは、19のコミューンにまたがって広がるため土壌や地勢がじつに様々です。シャルル・ジョゲは昔からシノンの多様なテロワールを尊重し、異なる個性を大切にしてワイン造りをしてきました。区画ごとに完熟を待って収穫し、醸造・熟成まで個別に行うのです。シェーヌ・ヴェールは表面を砂岩に覆われた粘土石灰質の土壌で、南西向きの急斜面に位置する非常に恵まれた畑です。完熟のブドウで造られるワインからは、野菜や植物などの青いニュアンスは感じられず、ベリー系の香りが溢れだしミントや甘草の爽やかさが漂います。今はジョゲのように区画ごとにワインを造る生産者が増えてきました。同じ生産者のシノンでも、畑ごとに飲み比べてみると、その違いに驚かされる事でしょう。
MAYA
マヤ
  • 生産者名 : Dalla Valle ダラ・ヴァレ
  • 産地 : アメリカ カリフォルニア州 ナパ・ヴァレー
  • 特徴 : マヤはカベルネ・フラン主体で、初収穫は1986年と歴史はまだ浅いワインですが、ファーストリリースから僅か数年でカルトワインの仲間入りを果たしました。マヤの成功はワイン造りを熟知した生産者たちと、オークヴィルのテロワール、カベルネ・フランどれが欠けても成し得なかったものです。フランス以外の国で大成功を納めたカベルネ・フランの代表と言えるでしょう。
    ブレンド比率はその年によって変わりますがカベルネ・フランが半分以上を占め、カベルネ・ソーヴィニヨンが補助品種となります。スミレやラズベリー、ミント、リコリスが香り、凝縮された上品な果実味、きめ細かい柔らかなタンニンが滑らかに喉をすり抜けます。
    いまだに人気は衰えず入手困難なワインのひとつですが、マヤと同じカベルネ・フラン主体のセカンドラベル「コリナ Collina」も生産しており、ダラ・ヴァレの若いブドウから造られ高い評価を受けています。

カベルネ・フランによく合う料理

ロワール地方のように涼しい場所で造られるカベルネ・フランなら、エスニック料理はいかがでしょうか。冷涼な地域特有の青いニュアンスや酸味、スパイシーさが特徴的なワインには、タイ料理のレモングラスやコリアンダー、ライムなどの爽快な香りや香辛料がうまく溶け込みます。赤ワインですがフルーティーで軽いタンニンや清涼感は、火が通った甲殻類や野菜とも好相性です。
ボルドーのカベルネ・フランはロワールに比べもう少しタンニンがあり肉厚になりますが、カベルネ・ソーヴィニヨンほどパワフルではないので濃厚なソースは要りません。牛ヒレ肉のステーキをシンプルな味付けで合わせてみましょう。赤身肉の旨味を引き締まったシャープなタンニンが引き立てます。
温暖な地域のカベルネ・フランの場合は、植物のニュアンスはやや控えめで豊富な果実味がプラスされます。黒酢やオイスターソースを使用した中華炒めと合わせると、カベルネ・フランの持つ果実味、酸味、スパイスのニュアンスが寄り添ってくれます。

まとめ

このようにカベルネ・フランは使用割合と栽培環境によって、ワインのスタイルが大きく変わる事がわかります。
カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローの補助品種としてブレンドされる時は、味わいを補いバランスを整える役割をします。カベルネ・フランの個性は表に出ませんが、味わいの特性や相性、栽培条件を考えると他に代われるブドウ品種はないでしょう。脇役であっても代役を立てる事が出来ない重要な存在です。
主要品種で使用されると、いつもはブレンドすることで隠れがちなカベルネ・フランの優れた特徴を十分に堪能することが出来ます。赤い果実、清涼感、スパイス、そしてシルキーなタンニン。特徴的な青いニュアンスは、不作な時ほどピーマンのような独特の香りを生みますが、冷涼な地であっても完熟すればミントのような爽やかさに変わります。
カベルネ・フランは土地の影響を受けやすく、味わいのバリエーションが豊富です。幅広い料理に合わせることが出来るので、今や世界中に広まり人気も高まっています。お好みの組み合わせなどを探して、様々に楽しんでいただきたい魅力あるブドウ品種です。

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